企業/自治体インタビュー

【第5回】育休20日間を有給化。男性育休推進は人材獲得に大きく寄与。妻の「愛情曲線」が経営層に響く(株式会社タカギ)

第5回 インタビュー

  • 企業名:株式会社タカギ 総務人事部長・ダイバーシティ推進担当 松田 理恵様
  • インタビュアー:FJQ 樋口

今回の育休推進組織インタビューは、法律の定義で「中小企業」の分類となる企業様としては初めてのインタビューとなる株式会社タカギさんです。北九州市小倉南区に本社を置き、散水機や家庭用浄水器の分野ではシェアも高く非常に有名で、読者の皆様もホームセンター等で見かけたことがあるのではないでしょうか。業界トップシェアを裏付ける技術力も高く、九州でキラリと光るものづくり系企業の同社に、近年の育休推進の取組について伺いました。

――御社の男性育休推進の取組について教えて下さい。

2020年に「ダイバーシティ推進プロジェクト」を開始し、社内にチームを作り取組を推進してきました。その中で、「育トレ制度」という、男性は配偶者の産後8週間以内における20日間、女性は産前休業の最初の20日間の特別休暇(年次有給休暇とは別に付与する)とする制度を作りました。

――ユニークなネーミングですね!効果は如何でしたか?

男性も、早い段階から育児のトレーニングを積んでほしいという思いからネーミングしました。成果としては、2020年には3%だった男性育休の取得率が、「育トレ制度」による有給を加えた数字ですと、2021年には75%、2022年には91%まで上昇しました。取得率がここまで上がった要因としては、(有給による)経済的な不安感が減少したのと、人事評価についても問題にならないという認識が広がった2点が大きかったと思います。

――V字での上昇、素晴らしいですね!組織内に反発はなかったですか?

「育トレ制度」の理解促進のために作成・配布した「育トレブック」に、いわゆる女性の「愛情曲線」を紹介したパートや産後うつの現状のパートがあったのですが、インパクトが大きく、当社の役員を含め、非常に説得力が高く共感を生むことができました。

――男性育休推進にあたって、経営層のコミットはどうだったでしょうか。

今の社長が子育てを経験された女性ということと、もともとトップダウンの強い社風もあったため、今回の取組もうまく浸透していったのではないかと思います。また、人材を大切にするという風土も強い会社なので、受け入れられやすかったと思います。

――御社でこれまで男性育休を取得された人数、期間を教えて下さい。

2022年度の数字ですが、対象者24人のうち、「育トレ」取得者が21名、「育休」取得者が1名、「育トレ」と「育休」を併せて取得した人が5名で、平均取得期間は27.5日間でした。

――御社にとっての男性育休取得のメリットを教えて下さい。

人材獲得が難しくなりつつある昨今、リクルートには大きく寄与していると思います。当社のイクボス企業同盟の記事を読んで応募されるような方もおられます。

前述の「育トレブック」には夫婦の家事分担のスキルについても記載されており、配偶者の方が感想を書く部分もあり、社員の家庭内エンゲージメントが高まることが期待されます。
また、子育て期の社員は、WEBで可能な面談は出張ではなくオンライン化するという動きもあり、働き方改革にも寄与しています。

――今後、社内で男性育休取得を推進していく上での課題感について教えて下さい。

どうしても周囲の職員への負担感は出てくるため、「周囲の職員がいなくなることが前提の仕組みづくり」が重要で、社内では管理職の座談会などを行い、情報発信するなど、会社が子育て期の職員に寄り添う姿勢を取っています。

また、女性活躍の様々な方針を国は打ち出していますが、夫婦の家事育児の負担割合は変わらず、これでは女性活躍もままならないので、「育トレ」を男性の家事参加拡大の契機としてほしいと思っています。

 

(編集後記)

ものづくり系企業としては初めてのインタビューとなったタカギさんでしたが、同社の精密かつ丁寧なものづくり(我が家の散水機も非常に丈夫です!)に象徴されるように、社員の皆様の雰囲気も非常にまじめということで、育休の一部を有給化する取り組みをきっかけとして、社内の意識改革が着実に浸透していったプロセスがよく理解できました。

今後取り組まれる「周囲の職員がいなくなることが前提の仕組みづくり」。どの企業にも難しい一筋縄ではいきにくい課題と思いますが、育児は介護や病気と異なり、ある程度期間が「計算できる」ものですので、今後、温かい社内風土が形成されることを期待しています。