第8回 インタビュー
今回の男性育休推進企業インタビューは、インフラ構造物(橋梁、風車、ダム等)のメンテナンス等を手掛けておられる、従業員数66名の株式会社特殊高所技術さんです。本社は京都市ですが、代表取締役の山本様は福岡にお住まいで、普段は福岡営業所におられるということで、九州地域にご縁が深く、今回お話を伺うことができました。
- 企業名:株式会社特殊高所技術 代表取締役 山本 正和(やまもと まさかず)様
- インタビュアー:FJQ 樋口
――社長は福岡にお住まいということですね。
はい。2010年に専務兼福岡営業所長として福岡に移住しました。プライベートでは、妻が熊本県出身で、双子ができて福岡の方が圧倒的に子育てしやすそうだという判断もありました。2022年に代表に就任しましたが、このような時代ですし、業務ができれば本社にいる必要もないということで、福岡に居住し続けています。
――これまでの男性育休推進の取組を教えて下さい。
制度面では、特別休暇(有給)として、子供が生まれてから1年以内であれば連続5日間の休暇(短期育児休暇制度)を取得できる制度を設けています。
会社の風土としては、短期プロジェクトのような業務が主で、業務の区切りがつくタイミング多く、長期的に属人的になる業務が少なく、代替が容易である事業モデルなので、休暇取得しやすいのではないかと思っています。例えば有給は半日単位で取得可能で、昨年度の取得率は74.2%となっています。
風土面では、取得に躊躇するような社内環境にはないと思います。これは、集う人の仕事への価値観が一般的な企業と異なっているからだと考えています。
当社の仕事は高所作業という、類を見ない特徴のある仕事です。当社の門を叩く人は、単純に仕事を求めているわけではなく、人の役に立ちたいという強い思いを持っている方が多いと感じています。全員とは言いませんが、このような考えに近い人が多いので、会社を単なる職場として捉えるのではなく、無意識のうちに仲間の集う場所と捉えてくれている人が多い印象です。
ベースとして個々の人生があってこその仲間の集う場所という考えが、多くの仲間の集合的無意識となっていると感じています。当たりまえですが、仕事が人生に勝ることはないですし、家族が増えるという最大のライフイベントに対して誰もが自然と協力できる環境になっているのだと思います。
そして、最も深部に存在しているのが、「人と人との繋がりを大切にし、共に幸せになる未来を作る」という企業理念であり、表面的ではなく実態として理念の実現のために経営陣を先頭に事業活動が行われていることが、このような風土を醸成しているのだと考えています。
新人企画の下鴨神社散策――男性育休推進には、企業トップや経営層のコミットが非常に重要と思いますが、御社は如何でしょうか。
特に男性育休をどうしたいということを発信している訳ではなく、「生まれ変わっても働きたい組織」、「死ぬときに家族からこの会社で働いて良かったねと言ってもらえる組織」を目指している結果、自然と制度活用も進んでいると感じています。
法制度もできるだけ勉強して先んじてやっているつもりですが、もし対応できていないと従業員が自ら「制度改定しましょう!」と言ってくれるんですよね(笑)。暴風並みに風通しの良い組織なもので(笑)。
――これまで男性育休を取得された人数、期間について教えて下さい。
短期育児休暇は、ほぼ100%取得しています。育児休業は2021年以降の数字ですが、これまで、44.4%(取得人数4人/ 出生数9人)取得しており、取得期間は以下の通り多様です。
Case1:65日間
Case2:37日間+98日間=135日間(繁忙期の前後に2回に分けて取得したケース)
Case3:51日間
Case4:20日間
育休は希望する人は全て取得できるようにしています。2回に分けて取得したケースもあり、その社員に聞いたところ、「繁忙期は仕事に出て落ち着いてから再度取得した記憶があります。2回目の時期は保育園の見学とかも重ねてちょうど良かったです」とのことでした。
――男性育休取得による組織にとってのメリットを教えてください。
取得された方々が取得によってメリットを享受できていれば、それに勝るものはありません。企業としてのメリットが組織本位なものになってしまうと、本来の主旨を見失ってしまうかもしれないため、企業としてのメリットを追い求めるつもりはありません。
――組織内で男性育休取得を推進していく上での課題はありますか?
取得しようとする人の知識量に差があると感じています。取得を躊躇する原因の一つに所得減少があると思います。実際は給付金を受け取ることで月当たりの手取りにはほとんど差が無いと認識しています。ただし、賞与には影響が及ぶため、年収ベースでは減収となってしまいます。
このようなことが、取得を検討する段階で詳細に把握できれば、価値観や家庭環境に合わせて取得の判断がしやすくなると思いますが、それを認識できていないと育休取得しづらくなるのだと感じています。
これらについては、対象者への意思確認の際に、取得後の経済的変化などを伝えていけたらと思っています。
退職者の結婚式に呼ばれることも――その他、従業員のやりがい向上のために行われている取組があれば教えて下さい。
個々の意見や環境に対して、柔軟に対応する風土があると感じています。例えば、家庭環境に合わせて在宅勤務を許容したり、営業拠点の設置を行ったりするなどの前例があります。今の組織規模であるからこそ柔軟に対応しています。
「やりがい」というワードについては、採用時に応募者から多く聞く機会があります。もちろん、社会インフラの維持管理という仕事は現代社会において、なくてはならないものですし、価値のある仕事だと思います。
――最後に、男性育休推進に向けて一言お願いします。
ある女性社員から「家事が苦手な人に育休を取られても、子供が一人増えるだけ」という声を伺うことができました。社会的な風潮として男性育休取得推進の波を強く感じていますが、家庭や個人の価値観次第で個別に判断されることが、自然体で持続的だと考えています。
男性が育児?と言われる時代から、男性育休が当たり前の時代に変わっていくのはとても素晴らしいと思います。
しかし、それが社会的風潮として圧力になってしまっては、個人や社会がよい状態に向かうことの遠回りになってしまうかもしれません。あくまでもニュートラルな選択ができる環境にある組織が増えていくことが望ましいと感じています。男性育休取得率が高い組織が素晴らしく、低い組織がそうでないわけでなく、その組織に集う人が自律して判断できている組織であれば、いずれでも素晴らしい組織だと思います。
18周年行事で胴上げされる山本社長
終始穏やかな雰囲気のインタビューだったのですが、全ての設問に対し、「会社が従業員を幸せにできなくてどうする」と山本社長に正面から突っ込まれているようで、想定していた回答との違いに衝撃を受けまくった(汗)インタビューでした。
また、「暴風並みの風通し」「個々の人生があってこその仲間の集う場所」等、名言オンパレードで恐れ入りました。まさに社長の強い理念のもと、「従業員は家族」と言った形容がふさわしい組織を作っておられるのだなと感じたところです。
また、山本社長の目下の悩みとして、個々の従業員が活躍するために、人事制度を改定しようかと考えていたところ、むしろこのようなトップダウンの形ではなく「ティール組織」のような個々の意思決定を強化していくべきでは、との方向転換を検討されているとのことで、こちらも組織人として改めて考えさせられるものでした。
今後のストーリーも是非お伺いしたいと感じていますので、引き続きよろしくお願いいたします!



